ホリスティック--全体をしっかりと見つめる、とでも表現さればいいのでしょうか。ウイスキーづくりを芸術と捉えるウイスキーメーカーは、無数にある作業や工程が一つひとつ独立したものだとは考えず、大きな1枚の絵画として捉えています。フレーバーの持つさまざまな可能性が網の目のように張り巡らされ、互いに密接にかかわりあっています。ある部分に手を加えると、その影響は全体に及びます。それぞれの工程で醸し出されていくフレーバーを熟知していなければ、ウイスキーメーカーはその可能性を最大限に引き出すことはできません。だからこそ、レイクスではダヴァル・ガンジーという稀に見るウイスキーメーカーがひとりですべての工程に携わっているのです。それが「ホリスティックなウイスキーづくり」の神髄です。
まず、大麦の品種と、モルティングの方法を選択することから始まります。レイクスではピート香をつけないウィスキーが作られてきました。湖水地方国立公園からの澄んだ冷たい水を加熱し、すりつぶした大麦に加えてクリアな麦汁を作ります。この工程も味わいに影響します。このマッシングの工程をゆっくりと丁寧に行うことで、仕上がりがよりフルーティになります。
次は麦汁の発酵です。しかし、どんな酵母を使えばいいのでしょう?酵母はただ単に糖質を分解してアルコールに変えるだけではありません。フレーバーを創造する重要な役割を担っているのです。
Dhavall の指導の下、私たちは現在、そのときどきによって酵母菌株を独自に組み合わせて使用しています。これらは毎週末にブレンドされます。 味わいに複雑さと深みを加えるため、発酵プロセスは最長96時間をかけて行います。これは、業界平均の2倍に相当します。
蒸溜もまたゆっくりと行われます。けれども蒸溜開始から終了に至る長い時間の中で使用されるのは、中央部分で得られる質の良い蒸溜液だけなのです。気化されたアルコールが銅製のポットスチルと触れ合う時間が長くなるほどフルーティーさとコクが生まれます。やがてシェリー樽が熟成させ、仕上げていくのにふさわしい素材、すなわち原酒となるのです。どこから取り始め、どこで止めるか、刻一刻と難しい判断を迫られる工程です
オークと樽の経歴が、熟成させる原酒に大きな影響を与えます。それらの個性が原酒に加えられ、融合し、組み合わされて、さらなる深みと複雑さをもたらすのです。
シェリーがベストだ、私たちはそう確信しています。シェリー樽の中で時を過ごしながら、私たちの繊細な原酒はゆっくりと花開いていきます。ここにもまた、ダヴァルのシェリー樽に関する専門知識が活かされています。多くの近代的な蒸留所がバーボン樽を使用するのに対し、レイクスでは原酒の80~90%がそれぞれ異なった特徴を持つシェリー樽に満たされます。ウイスキーづくりでよく使われる500リットルの樽は「バット」と呼ばれます。この大きな樽はまた長期間の熟成にも適しています。
オロロソシェリーを寝かせていたスパニッシュオークの樽は、ドライフルーツ、ショウガ、しっかりとしたタンニンのフレーバーをもたらしてくれます。他にもアメリカンオークやフレンチオークのシェリー樽も使っています。これらは甘口のペドロ・ヒメネスやクリーム。辛口のフィノに用いられていた樽で、クリーミーさやスパイシーさを与えてくれます。250リットルの「ホッグスヘッド」もまた違ったフレーバーを生み出します。
それぞれの樽が、テーマや色、香り、表現をもたらして、ともに新しいものを生み出します。それは、この場所と、人を反映する新しいウィスキーです。
新しいウィスキーを作るときには、フレームワークが必要です。しかし、本能と感覚に従うことができるように、そこに遊びを加える余地がなければなりません。そこでは、冒険心が求められます。
ただフレーバーをまとわせればいいというものではなく、さらにそのフレーバーの持つ可能性を開花させていくのです。
Dhavall は各樽を熟知しています。フレーバーがどのように進化していくか、他のフレーバーとどうブレンドすることで、補完、強化、深化、拡大、または対比することができるか。互いに刺激し合うものもあれば、興奮していたり、不機嫌であったり、気難しいもの、重いもの、軽いものなどさまざまです。
ブレンディングはまさに芸術です。ベース、ミドル、そしてトップノートへとアロマのピラミッドを組み立てながら、新たな香りを創造していく調香師の魔術に似ています。大胆かつ創造的で、表現力が求められます。一方で、非常に個人的なものでもあります。
レイクスでは、ブレンディングとは、発想や感情、感性をウイスキーという言語を通して創り出し、表現していくことにあります。それはウイスキーメーカーという人の心の中から生まれるものなのです。
これはとても時間のかかる仕事です。そのため、最終的にウィスキーメーカーの手によって厳選された樽は、瓶詰めする前に、他のどのウィスキーよりも長く、最長1年間寝かされます。 これがさらなる深みと丸み、調和をもたらし、レイクスウィスキーの最後の仕上げとなります。
「ウイスキーが芸術といえるかどうかなら、ダヴァルと一緒に彼のブレンディングラボで過ごしてみるといい。まさにこの男こそ、フレーバーというパレットに熱中するアーティストなのだとわかるだろう」
ロブ・アランソン(ウイスキーマガジン編集者)